アルビレックス新潟と新潟のあれこれ


by joehenderzone
カレンダー
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30

The One in My Pocket

 じゅん子はブランコを漕ぎながら昨晩のことを思い出していた。
「じゅんちゃん、ごめんね。ママ明日急なお仕事ができちゃって」
「えぇ? うそでしょ? じゃあ私の誕生日パーティーは?」
「ごめんなさいね。お友達にはママがちゃんと連絡して、謝ってあげるから」
「そんなのやだー」
ママの足に纏わり付いて、園児のように地団駄を踏んだ。
「パパは?パパは帰ってこないの?」
「パパは夜遅くにしか帰って来れないって」
「そんなのひどい、そんなのひどい。せっかく楽しみにしていたのにー」
そして今朝、目を赤く腫らしたじゅん子はママとはひと言も口をきかずに学校へ向ったのだった。
貯金箱の蓋を開けて、ありったけのお金をポケットに入れて。

 東京に『たんしんふにん』しているパパは、いつもは土曜のお昼に帰ってくる。
『かいごへるぱー』のママも土曜日はお休みのなのに。
だから誕生日が土曜日に重なる今年こそは、お友達をよんでパーティーをしようと思ったのに今日に限って、今日に限って、急なお仕事だなんて。
「もう家出よ!」
チャイムが鳴ったら、駅に行って電車に乗って、隣町まで行って噂のとろけるケーキを買って、海の見える公園に行って、それから、それから。
こうしてじゅん子は、学校帰りのその足で、隣町の海を臨む高台にある公園へひとり向かったのであった。
夏休みに家族3人で出掛けたその公園へ。

 空が蜜柑色に染まって急に風が吹き始めた。
じゅん子はブランコを漕ぐのを止めた。
背中のランドセルを開けて、友達から貰ったプレゼントのリボンをほどいてみる。
ハルコからは、“たらこキューピー”のストラップ。
「てか、あたしケイタイ持ってないし」
ひろみは、ビーズで彩られたヘアバンドか。
「てか、私の髪の毛ショートだから」
やっちゃんからは、キラキラのリップクリーム。
「あーあ、食べ物はないの?食べ物は?」
そう呟きながら冷たくなった手をポケットに突っ込んだけれども、冷えた金属片が指に触れただけだった。

 「はい、おじょうちゃん」
ぬっと薄汚れた手が、突然にじゅん子の背後から現れた。
振り返るとボロ布を纏ったような、おじいさんが立っていた。
飴玉を差し出している、その手は微かに震えていた。
そんな手元から視線を逸らすと、薄暗闇の向こうの木立が怪物のような影になっていた。
目が闇に慣れてくると、その繁みの中に、夏の林間学校で泊まったテントのようなシートがうっすらと浮かんで見えた。

 怖くなって駆け出して、電車に乗って、気がついたらいつの間にか家の前にいた。
大きく肩で息をついて、花壇の縁に腰をかけていた。
あめ玉、リップクリーム、ヘアバンド、ストラップ。
次から次へと隣に並べてみた。
わけもわからず、涙があふれ出て頬を伝った。
涙を拭った指先をジャンパーのポケットに入れた。
ハンカチも、ティッシュも見つからなくて、やっぱり冷たい金属の塊が指先に触れた。
「あ、おうちのカギ」
震える唇でそう呟いて、プレゼントの列に並べた。
体はもう、冷凍庫の中のアイスクリームのように固くなっていた。
じゅん子は迷わず鍵を手に取って、ドアノブに手をかけた。

 取っ手はくるりと回り、わけもなく開いた。
コンコンコンコンコン。
包丁が刻むリズムと一緒に、大好きなクリームシチューの匂いが体中に広がった。
目の前には大きな靴も背伸びをして待ち構えていた。




 
「では、わたくしのポケットの中に入れておきま~す」
坂本選手の引いた紙つぶては、司会を務めるアルビレックス新潟の職員の背広のポケットの中に消えた。

 横浜戦後に行われた、首都圏後援会の集い。
その前半戦、総会の前に訪れた坂本、永田両選手への質問に始まり、退席後に行われた中野社長との質疑応答。
それなりの参加人数の中、それなりの質問が飛び交って、それなりの回答が出て、例年とは明らかに趣が異なってはいたが、意外と淡白に会は進んでいった(酒が入っていないため)。
そうして、ようやく乾杯を迎えた後、お楽しみの抽選会。
サイン入りグッズをはじめとして、今年は出席者の1/3に何かしら当たるという大盤振る舞い!と言うか、シーズン終盤在庫一掃セー(以下自粛)。
我々仲間達も、その確立の例に漏れず、当たったり、外れたりに悲喜こもごも。
そんな中、会も終盤、もう諦めかけた某女史はひとり、「こらー!日本酒もってこいやー!」のひとり自棄酒モードに突入。
そんな彼女に構わずに、最後の一品。今日のお宝。先日のFC東京戦使用の試合球の登場!
もちろん、坂本、永田のサイン入り。

 ここで前述の司会者ひと言。
「それでは、本日最後の目玉のプレゼントの当選者が誰になるか?来賓の○○さんに番号を引いていただきましょう!」

おいおい・・・。
最初に坂本が引いただろ。
いくらオレらが酒を煽っていても、そんなこと絶対に忘れませんよ!
オレら酔っ払いの突っ込みに呼応して、会場一斉の大ブーイング。
思い出した司会者氏、おもむろにポケットからしわくちゃになった紙片を取り出した。

「29番!」
手酌モードになりかけていた某女史、やおら目を見開いて、
「あたし!」
かくして、この日一番のお宝は酔っ払いの手に落ちたのでありました。





 さてラストゲーム(前振りなげーよ)。
5位とか、7位以内とか、もうちょっと上位にいけたとか、いろいろあるでしょう。
でも、ちょっと思い出してほしい。
開幕前に祈った願いを。
遡れば、アルビがJ1に昇格した時の開幕戦を。
もっともっと前ならば、J2にいた頃の願いを。
いつの間にか、ポケットには夢や希望で満ち溢れ、時にはこぼれ落ちて文句のひとつも口を突いて出たけれど。
最初に入っていたものは何だったっけ?
最後に残っていて欲しいものは何だろう?
オレは、今年のホーム開幕戦の充足感を思い出す。
久しぶりに目の前で繰り広げられるゲームを。
またここでアルビの試合が見られることの喜びを。
その思いを最後の試合でもかみしめたい。
寒いけど、ちょっとだけポケットから手を出して。
[PR]
by joehenderzone | 2007-11-30 00:00 | アルビレックス新潟 | Comments(0)